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最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)1108号 判決

上告人

藤田海事工業株式会社

右代表者

藤田柳吾

右代理人

田村徳夫

松田安正

被上告人

飯塚勇進

右代理人

大原篤

大原健司

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田村徳夫、同松田安正の上告理由第一点について。

上告人は、原審口頭弁論において、所論の代物弁済予約完結権の消滅時効を主張していないこと記録上明らかであるから、これをもつて原判決を非難することは許されない。

つぎに、上告人は、本件代物弁済予約完結権は久しきに亘り行使されなかつたのであるから、いわゆる権利失効の原則により、右予約完結権は消滅し、その行使は許されないと主張する。

原判決の確定するところによれば、本件土地の前所有者訴外増田富吉は、昭和一六年三月一三日訴外有限責任第一貯蓄信用組合(昭和二五年頃第一貯蓄信用金庫と商号変更)から五万円を弁済期昭和一七年三月一三日の約定で借り受け、本件土地につき代物弁済予約契約を締結し、右予約完結による所有権移転請求権保全の仮登記手続をなしたのであるが、右弁済期経過後も債務の弁済がなく経過したところ、被控訴人(被上告人)は、昭和三二年六月一二日右第一貯蓄信用金庫から増田富吉に対する前記貸金債権および代物弁済予約上の権利を譲り受け、その頃右譲渡につき増田富吉の承諾を得、同月二五日右所有権移転請求権保全仮登記の移転登記を経由した上、同月二八日右増田に対し代物弁済予約完結権を行使して本件土地所有権を取得し、同年七月一日前記仮登記の本登記として所有権移転登記手続をなした。一方、本件土地につき昭和三一年五月一五日増田富吉から第一審被告藤井寛一へ、同年一一月一二日右藤井から第一審被告神田梅次へ、昭和三二年三月五日右神田から控訴人(上告人)藤田海事工業株式会社へそれぞれ所有権取得を原因として所有権移転登記がなされたというのである。右確定事実によれば、前記代物弁済予約完結権の行使は、通常予想される期間を遙かに経過した後に行使されたものということができるが、本件土地については右予約完結による所有権移転請求権保全の仮登記が依然として登記簿上存在していたのであるから、上告人藤田海事工業株式会社としては、本件土地の所有権取得に際し、右登記簿によつて公示された代物弁済予約完結権がいずれ行使されるかも知れないことを予想すべきであつたのであり、他に特段の事情の認められない前示事実関係の下においては、上告人において右代物弁済予約完結権がもはや行使されないものと信頼すべき正当の理由があるとはいえない。

原判決に所論の違法がなく、論旨はいずれも採用できない。

同第二点について。

原判決は、本件土地の判示固定資産課税評価価格のほか、本件土地につき訴外増田において多額の税滞納のため滞納処分がなされている事実、本件土地につき数名の第三者が賃借権を有するといつて、それぞれ地上に家屋を所有している事実を参酌し、訴外増田富吉より被上告人への本件債権、抵当権、代物弁済予約上の権利譲渡の判示対価をもつて必ずしも不当でなかつた旨判示したものであつて、右判断は相当である。右のように原判決は、右固定資産税評価価格をもつて直ちに本件土地の時価と判断したものでないこと、右判示により明らかである。原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

同第三点について。

原判決確定の事実関係の下においては、被上告人の判示代物弁済予約完結権の行使をもつて公序良俗違反、権利濫用に当ると解することができない。原判決に所論の違法がなく、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 石坂修一 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六)

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